WiredとAdobeのアレに思うこと

かねてからiPadのようなタブレットPC向けに出ると噂だった「Wired」の電子版が、先日iPad用のアプリケーションとしてリリースされました。発売に際し掲載されたムービーなどを見た段階では、「おお!なんだこれは!?」なんて思ってました(要は期待していたわけ)。

ipadapps-wired

さて、いざ600円で購入してみると「はぁ…、なるほど」という感想しかでてきませんでした(笑)。だって「10〜20年前にあったCD-ROMコンテンツ?」みたいな感じなんですよね、正直なところ。確かに縦向き横向きのどちらでも見られるし、スワイプ操作でページはめくれるし、同じページ内でタップで写真を替えたりムービーが再生されたりします。

でも、やっぱりこれはただのデジタルコンテンツなんですよね…。
というわけで、ちょっと今日はこの辺の話でボクが思ってることをツラツラと書いていきたいと思います。

Wiredのコンテンツの作られ方

このWiredアプリが発売されて数日後、海外では既に「WiredのアプリはAdobeのツールで作られている」みたいな話が出ていました。

iPhone/iPad向けのアプリケーション開発に関するAppleとAdobeの間でのいざこざはご存知の方も多いかと。そもそもこのアプリ、元はといえばFlashベースで作られていたんだけど、いざ書き出したとしてもAppleにリジェクトされるからあらためてObjective-Cで作り直したという話。

そのWiredのアプリの容量は527MB、「ご、ごひゃく?」。たしかに中にはムービーもあるし大量の写真がありますので、その容量からコンテンツの作られ方が想像できるわけで…(中身を解析してる人もいます 笑)。ページの一枚一枚が画像…。

ページを拡大したり縮小したり、テキストを選択したりマークすることができるわけでもない。あくまでもiPadのようなタブレット型のタッチインターフェイスでインタラクティブに眺めるための電子コンテンツアプリケーションです。

だから「これ昔のCD-ROM?」っていう感想になってしまう。

パッケージとしてこの形が悪いわけではなく、提供する内容によってはもちろんありでしょう。でも、これじゃPDFを並べたのとたいして変わらないし、だったらタップでその場所を拡大できるPDFの方がまだましかなぁ…。残念賞(笑)。

何度失敗すれば気が済むんですか?

さらに昨日あたりで出てきたのがこのニュース。

Digital Publishing Platformでは、同社の組版ソフト「InDesign CS5」で紙の雑誌用に作成したデータを電子コンテンツに変換できる。コンテンツはマルチタッチ対応にでき、音声や動画、スライドショーなどを追加することも可能だ。また、インタラクティブな広告を掲載し、広告へのアクセスデータのレポートを入手できるサービスも用意されている。

Adobe、iPad向け電子コンテンツ作成ツール「Digital Publishing Platform」を発表

先のWiredもこれを使って作られているわけですが、果たしてそれでいいのか?と。まだモノが出てないので何とも言えませんし、別にAdobeさんの商売の邪魔をするつもりはないですが(笑)。

世の中にパソコンが普及し始めてからずっと見てきた人は、出版用のコンテンツをデジタル化するために歩んできた経緯を覚えてらっしゃる方も多いかと。

過去「QuarkXPressのデータをHTMLに」「InDesignのデータをFlashに」と、何度も似たようなことを繰り返しては失敗してるじゃないですか(笑)。正直いずれも成功したとは思えないし、それがうまく回っているのであれば今さら電子書籍だのが騒がれることじゃない。

たしかに出版用にフォーマットされた組版データをいろいろなデバイスにパブリッシュできるのはありがたいかもしれません(提供側からすれば)。即時性が求められるタイプの誌面では時間も費用も抑えなければならないでしょうし、カタログのようにパラパラ眺めるようなタイプのものには向いているでしょう。

でも、誌面のフォーマットを同じ形で変換して書き出すだけなら過去の繰り返しです。なんでこう同じ轍を何度も踏もうとするんですかね…。一昔前と違って技術や環境も大きく変わり、いろいろな意味で価値のあるコンテンツとして提供する手段はあるのになぁ…と思うわけです。

いい加減、特定フォーマットにこだわるのやめません?

雑誌の売り上げが減っているとか、休刊が相次いだりしています。紙という媒体では売れなくなってきたから、もう少し買いやすいように電子コンテンツとしても提供する。映像などの付加情報も付けられるしね。考え方としてはわかります。

でも、いつまで誌面という定型のフォーマット、それに最適化されたデザインを提供することにこだわってるんでしょう。誌面と同じ体裁で書き出されたものをパソコンや携帯電話をはじめとした閲覧側の見え方が異なったり、表示領域が狭くなりがちなデバイスで見たいと思います?

できれば、読みたいデバイスで読める文字サイズで文章とかは読みたいですよ。Webページを後で読むためにブックマークできる「Instapaper」ってサービスでは、通常のWebページとしてだけではなく、いろいろなデバイスでも読みやすいようにテキストだけを抽出して読めるモードもあるぐらいです。

前述したような「眺めるだけ」に特化しているものならまだしも、雑誌は編集さんやライターさんが取材して丁寧にまとめらているものもあるし、中には永久保存版にしておきたいぐらいじっくり読みたい記事もあります。時には線を引いたり、付箋を付けたりしながらね。

本当に電子出版の市場を活性化させたいと思うのであれば、決められたフォーマットやデザインにこだわって提供するのではなくて、1ソースをマルチデバイスに最適化した形にリフォーマットしないとダメじゃないんですか? クロスメディアってそういうことでしょ? それは別にWebで提供するコンテンツに限った話じゃないと。もう昔とは違います。

電子書籍って形だけど、うまいのはやっぱりAmazon

そういう面でうまいなぁ…と思うのは、先行しているAmazonなわけです。Kindleのフォーマットで展開されるものはあくまでも「電子書籍」なわけで、PDFを並べただけやCD-ROMコンテンツの焼き直しのような電子コンテンツとは性格が違いますが。

購読者は常にパソコンの前にいるとは限りません。昼下がりにはソファに腰掛けKindleで読む、移動中の電車内ではiPhoneで続きを読む、と。Kindleの場合は、「WhisperSync」という自動的に読んだところを同期できる仕組みがあります。手元にデータがなければ、サッとダウンロードできる。

とある会社が始められるという電子貸本サービスでは、クラウド上のデータにアクセスして続きをホニャララみたいな謳い文句でしたけど、「クラウド」って言葉はともかく(笑)、外部にある小さなデータをデバイスに関係なくダウンロードしてきて読めた方が都合はいい。特にしばらく読み続けなければならない書籍であれば、なおのこと。

電子書籍を装ったアプリと電子書籍と呼ぶに値するもの、同じようにみえて中身はまるで違うのが現状ですね。

いろんなデバイスの特性を考えた設計が必要ですよ

ボクは紙の世界とデジタルの世界の双方を見てきてそろそろ20年弱になります(気付いたら長居してしまったw)。

紙の媒体を後からWebなどに展開する場合、出自の関係もあって紙の媒体を担当するデザイナーさんが元を作ることもあるでしょう。しかし残念ながら、それはWebという見た目が可変するデバイスに向けて考えられたデザインではなく、固定化された判型で考えられたデザインも多いものです(Webの人は紙の人を悪く言ったり、逆もまたありか、と 笑)。でも大体はWebやデバイスの制約をまるで考えられてないデザインを実装するWebデザイナーにしわ寄せが来る、というわけですね。

この先、電子書籍や電子コンテンツがどういう拡がりをみせるかわかりませんが、そろそろ紙媒体を専門にされてる方もそろそろデジタルのことやWeb、インターネットの特性、多様化するデバイスに特化したインターフェイス設計などもアタマに入れておきたいものですね。せっかく丹誠込めて作ったクリエイティブも、閲覧デバイスが変わった途端全否定されるかも知れませんから(笑)。

「餅は餅屋」という言葉があります。餅は餅屋でも、形が既にできあがった鏡餅を食べやすい板状の餅にするのは苦労します。できれば、餅米の状態から板状の餅を作らせてもらった方が手間も費用もかからないでしょう。

電子化したコンテンツを提供したいのであれば、いい加減元の素材を最初から別の生産ラインで流すようにした方がいいじゃないかと思います。もしくは、これまでそういうことを考えたこともない紙媒体のアートディレクターやデザイナーさんがもう少し勉強するか、です。もちろん、それは今までWebを専門にしてきた人も同じ。

未来はどっちだ?

デジタルが得意な出版社のことは心配はしていません。問題はそれ以外の出版社や代理店の皆さんの動きです。ツールを使えばボタンひとつで既存のデータを電子化して配信することは可能かも知れません。でも、「ほら、電子化したから読んでよ」って差し出されても、データのダウンロードに時間がかかったり、デバイスや読み方までも制限してしまうようなやり方はどうかな?と。

もちろん媒体によっては、Wiredのような電子カタログみたいな展開もあるでしょうから、それをまるっと否定しているわけではありません。内容によって出し方を考えた方がいいよ、ってことです。いくら効果測定ができたとしても、露出の少ないコンテンツには広告だって出したくないでしょう。見られるか見られないかもわからないのに。

読んでほしいものなら、誌面のデザインにこだわるのと同じようにこういった電子デバイスに向けたコンテンツの作り方や見え方にもこだわってほしいなぁ…と。安かろう悪かろうってのを掴ませないでいただきたく(ちゃんと対価は払いますからw)。

電子書籍市場を活かすも殺すも提供側の考え方次第です。過去何度も失敗したことを思い出してくださいね(笑)。

一応こんな業界の端っこで生活してるので書いてみました。

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